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美しく呪われた女
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美しくも呪われた女。欲望に翻弄されながらも、気高さだけは失うことがない。
苦痛と快楽、規律と頽廃、知覚と幻覚、禁欲と色情、肉体とラバー。
まるで倒錯した美の迷宮を彷徨い歩くように、
抑制を失った妄想は肥大化し続け、出口さえも自ら忘れ去ってしまう。
欲望の坩堝の中で快楽だけに身を委ねたい。
美に耽り、一生閉じられた殻の中でゆっくりと豊潤に発酵していきたい。
暗く深い海底の中にゆらめく死体の様に青白い皮膚。
阿片中毒者のように瞳孔が開ききった漆黒の瞳、蜥蜴の鱗のように艶めかしく濡れる真紅の口唇。
痴呆の様な微笑。魂を抜き取られそうな、エロスとタナトスの抗いきれない誘惑。
美しく呪われた女。死の陶酔の中に生き続ける女。
谷敦志の創り出す性的幻覚の世界には、色濃く死の雰囲気が漂っている。
それはサディズムやマゾヒズム、フェティシズムを超えた究極の快楽の世界であり、
極限状態のナルシズムである。 エクスタシーは、小さな死である。
終わることのないエクスタシーに溺れることは死の中に生き続けることでもある。
自らの肉体を変形させ、傷つけ、加工し未知の快楽を求め続ける人々、
深遠な欲望の淵に身を投げた美の殉教者たちの美しくも呪われた肖像画。
それが谷敦志の写真である。
彼は、非現実の様な現実をカメラを通じ、より詩的に非現実なものとして表現する。
その非現実感こそが狂気を増幅させ、彼の美意識を極だったものにする。
谷敦志は冷静に、死の恐怖と快楽の中で泣き叫び陶酔する女たちを観察し、淡々とシャッターを切る。
そして彼女たちは、印画紙の中に永遠のエクスタシーを封印される。
官能と恐怖は、沈黙の叫びとなって谷敦志の妄想の中でまるで人形のように解体され再構築される。
そこには理性から解放された狂気が美へと昇華して、見る者を幻覚の世界へと誘う。
そして気がつくともう一人の自分が闇の淵から手招きしている。
DUNE編集長 林 文浩 |
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